宮崎空港を降りて12時前にはレンタカーを借りたら1時には油津市街に入ります。たとえ12月でも2月でも宮崎独特の眩しいほどの陽光が目に痛く、鬼の洗濯板を眼下に眺めながらの最高のドライブとなります。

右手に常宿の「ホテルシーズン日南」を見たらしばらくして右折、油津の駅舎を左手に過ぎると最後の曲がり角となります。鉄道の踏み切りを越えると「NHKわかばのロケ地 村上酒造」という看板が見えてきます。
NHK朝の連続TVドラマ「わかば」は飫肥城下の家族経営の蔵となっておりましたが実際にロケ地として選ばれたのが京屋酒造です。NHKのスタッフが宮崎中の蔵を訪問し、まさに「ここぞイメージどおり!」と選ばれた蔵です。
2001年に訪問したときはこんな様子でした。
今は手前の田んぼは埋め立てられて駐車場になっています。土甕の形がよくわかります。
早朝7時とか8時に訪問すると仕込み時期にはこのように近所の方々が手作業で甘藷の皮むきに精を出されているところに出くわします。毎日数トンの仕込み芋を全部手で剥くのですから本当に大したものです。
剥かれちまった芋はこんな感じです。
そもそも甘藷(さつまいも)というのは皮のすぐ下や両端の部分にテレピンという物質があります。切った断面からじわっと出てくる白い液体がそれです。

この部分をとるため皮はかなり厚く剥きます。両端を切るのもとても重要な作業で、大手など数十トン単位で仕込みを行う蔵はガラガラと洗うだけで皮も両端も落とさずに仕込みます。
主原料である芋を丁寧に下ごしらえすること、これぞ京屋の味わいの原点です。
そもそもここまで手をかけるのも自家農場を持っている蔵だからこそ。代表の渡邊眞一郎氏の言葉を借りれば「フランスやイタリアのワイナリーのように農場に囲まれて作りをすることが理想」とのこと。子会社の農業生産法人で10町歩(10ヘクタール)の農場を所有し、社員総出で植え付けをするのも京屋さんの年中行事です。
ちなみに甘藷(さつまいも)は種芋から出た芽を植えつけて育てます。

種芋から芽を育てるためのビニールハウスです。
工場はすべて木造、毎回行くたびに手が入っているのがわかります。台風の影響などもありいつも修理、改修、増築中です。

それでは工場内を仕込み順にまわっていきましょう。
■一次工程(洗米、蒸米)

甑(こしき)を使うところもありますが京屋さんではドラム式を使っています。大型工場では円盤型で数十トン単位で一次工程のすべて(洗米→蒸米→製麹)までをやってしまうところもあります。
■一次工程(製麹)

「一こうじ、二もと、三つくり」というぐらい重要なのが製麹、つまり麹米づくりです。 森伊蔵や白金酒造など「手作り蔵」という名称を語るところは必ずこの三角棚を使っています。

杜氏の真剣勝負、パウダー状の麹菌を降るのですがそれぞれに流儀があります。
2昼夜ほどで米の中にまで麹菌の菌糸が入り込み(はぜこみ)、米の表面にはふわふわとした麹菌がびっしりと繁殖します。
このときの香りはまさに栗のようです。口に含むと水分が少なく歯ごたえがあり、噛むほどに甘味がふくらみます。

ちなみにほとんどの蔵ではタイから輸入したインディカ米を使います。水分含有量が少なく扱いが楽でなによりも原価が圧倒的に安いためです。京屋さんではもちろん国産米を使っています。一部の銘柄には自家田で作られた合鴨農法の無農薬栽培米を使っています。
■一次仕込み

土に埋めた甕の中に麹米と水を加え一次発酵が進みます。
米の澱粉を麹の力で糖化するとても重要な仕込み段階です。
■二次仕込み(蒸し)

皮を剥いて下処理された甘藷を蒸し器で蒸します。スチームを作るのは「コルニッシュボイラー」、昭和初期から使われており宮崎駿のアニメ「天空の城ラピュタ」にでも出てきそうな味わいをもったボイラーです。
ボイラーの音はまるで生き物のようです。
レンガ積みのボイラーは上から見ると上り窯のようでもあります。

一次仕込みのもろみに二次原料の蒸し甘藷をいれ、酵母、水を投入し発酵が進みます。
約2週間の二次発酵の工程はまさに生物を思わせる不思議な世界です。30秒ほど立つと沸き立つようにボコボコと急激に発酵し、大量の炭酸ガスを噴出します。火山のようです。
二次もろみがとても綺麗で皮や汚れがないのは皮むきをしているからこそです。
下が細くなった甕の形状は自然な対流が起こり力強く発酵が進みます。蛇管などを使わないため強制的な除冷を行わずまさに自然の力でコントロールされるわけです。

ちなみに工場は山に近く大雨が降ると甕のまわりには水が入り込みます。水が入り込む水位にあわせて土からの立ち上がりの高さが違うというのですから先人は自然の力をとてもうまく利用したのでしょう。
■蒸留

見てください。この小さな蒸留器!

土の甕1本は800kl程度、二次もろみをだいたい3本分蒸留器に入れて蒸留します。
蒸留器は小型なほどやさしい味わいの蒸留酒となるといわれます。常圧蒸留、減圧蒸留、商品によって蒸留の方法もそれぞれです。
■貯蔵

蒸留したての原酒はまだ荒々しさはありますが、その場でも飲めます。この後甕で寝かして瓶詰めを待ちます。濾過は極力行わず、芋そのものの旨み、甘味を楽しめる理由のひとつです。
貯蔵後、瓶詰め、ラベル貼り、箱詰め、出荷となります。
京屋さんの工場敷地にある小さな試飲コーナーです。
モンドセレクション最高金賞、監評会での表彰状などが処狭しと並んでおります。
電話は使えません。
ベルギーからのお客様を案内しての記念撮影。渡邊眞一郎さんと。
京屋酒造さんは今に残る数少ない全工程手作りの蔵です。観光客用に手作り蔵を見せている蔵はあるのですが、京屋さんはステンレスの発酵タンクは1本たりとも持っていません。つまり麦でもそばでもすべて甕つぼ仕込みというわけです。これは本当に珍しい。
売れてくるとすぐに工場拡張したり第二工場新設したりという蔵が多いのですが一切拡大路線を踏まず昭和初期からの仕込み設備だけで頑なに手作りを守りとおしているのです。
美しい酒質には美しい理念が写りこんでいる、そんな手作り蔵です。